在職老齢年金とは?2026年4月改正で支給停止基準が51万円→65万円に引き上げ|働きながら年金を受け取る人の影響を解説
※ 2026年6月時点の情報です
「働きながら年金を受け取ると、せっかくの年金が減らされるのでは」と心配する方は少なくありません。実際には、厚生年金に加入して働きながら老齢厚生年金を受け取るとき、賃金と年金の合計が一定額を超えた場合にだけ年金の一部が支給停止される仕組みがあり、これを在職老齢年金制度と呼びます。2026年4月から、この制度の支給停止が始まる基準額が月51万円から月65万円に引き上げられました。賃金と老齢厚生年金の合計が月65万円までであれば、年金は全額受け取れます。
この記事では、65歳前後で働き続ける方や、これから定年後の働き方を考えている方向けに、改正の中身、計算式、賃金と年金の合計額別の影響、家計でできることを整理します。
1. 在職老齢年金の2026年4月改正、ポイントは2つ
2026年4月施行の在職老齢年金制度の改正は、次の2つの動きで整理できます。
- ① 支給停止基準額の引き上げ:賃金と老齢厚生年金の合計が一定額を超えると年金の一部が支給停止になる仕組みのうち、その「一定額」が令和7年度の月51万円から令和8年度(2026年度)は月65万円へ14万円引き上げられました。改正の根拠は、令和7年5月16日に第217回通常国会へ提出され、衆議院で修正のうえ6月13日に成立した年金制度改正法です
- ② 全額支給される人の範囲が広がる:賃金と年金の合計が月65万円までであれば、これまで一部支給停止になっていた方も含めて老齢厚生年金が全額支給されるようになります
調整の対象になるのは老齢厚生年金のうち報酬比例部分のみで、老齢基礎年金は調整の対象になりません。「働くと年金が全部減らされる」と誤解されがちですが、減るのは報酬比例部分の一部だけで、しかも今回の改正で減る人の範囲そのものが縮小しました。
2. 在職老齢年金とは何か
仕組みを順に確認します。
対象は「厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受け取る人」
在職老齢年金は、厚生年金保険に加入しながら老齢厚生年金を受け取る60歳以上の方を対象に、賃金と年金の合計額が基準額を超えた場合に老齢厚生年金の一部または全部を支給停止する制度です。会社員・公務員として定年後も働き続ける方が主な対象になります。
自営業・フリーランスとして個人事業で働く方や、厚生年金に加入せずアルバイト・短時間勤務をする方は、賃金がいくらであっても在職老齢年金の調整対象にはなりません。あくまで厚生年金被保険者である期間中の調整です。
「基本月額」と「総報酬月額相当額」の合計で判定
調整の基準になる2つの金額は次のとおりです。
- 基本月額:加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額。年金額のうち、配偶者などへの加給年金分や老齢基礎年金分は含めない
- 総報酬月額相当額:その月の標準報酬月額+その月以前1年間の標準賞与額の合計を12で割った額。賞与を年単位で月割りに直したうえで月給と合算する設計
この2つの合計が基準額(令和8年度から月65万円)を超えると、老齢厚生年金の一部が支給停止になります。基準額以下なら全額支給です。
調整されるのは「老齢厚生年金」だけ
調整の対象は老齢厚生年金の報酬比例部分のみで、老齢基礎年金(国民年金部分)は対象外です。会社員人生で積み上げた厚生年金の上乗せ部分が一部止まる可能性はあるものの、土台となる基礎年金は働き方に関わらず満額受け取れます。
加給年金額は計算上「基本月額」から除かれるため、判定そのものには含まれませんが、報酬比例部分の全額が支給停止になった場合は加給年金も支給停止になります。
3. 改正内容:基準額51万円から65万円へ
改正の内容を年度別に整理します。
改正前後の基準額
改正前と改正後の基準額の比較は次のとおりです。出典は日本年金機構の改正特設ページです。
| 年度 | 支給停止が始まる基準額 | 改正前後の差 |
|---|---|---|
| 令和6年度(2024年度) | 月50万円 | — |
| 令和7年度(2025年度) | 月51万円 | 毎年度の自動改定 |
| 令和8年度(2026年度) | 月65万円 | +14万円(法改正による引き上げ) |
毎年度の基準額は名目賃金などに合わせて自動で改定されるため、令和6年度から令和7年度にかけても1万円動いていました。今回の引き上げはこれとは別枠の制度改正で、令和8年4月1日から適用されます。
改正の背景
改正の背景には、働き続けたい高齢者と働き手を求める企業側のニーズの両方があります。政府広報オンラインによれば、令和5年度に内閣府が行った「生活設計と年金に関する世論調査」では、60代の約5割が「66歳以上でも働きたい/働いている/働いていた」と回答しています。一方で、厚生労働省は「働き続けることを希望する高齢者の活躍を後押しし、より働きやすい仕組みとする」観点から制度の見直しを行ったとしています。
これまでの基準額(月50万〜51万円)では、賃金が月40万円台になると老齢厚生年金の一部が支給停止になるケースもあります。同調査では、60代後半の3割以上が「年金額が減らないよう時間を調整し会社等で働く」と回答しており、基準額が65万円まで上がることで、こうした就業調整を気にせずに働ける範囲が広がります。
4. 支給停止額の計算方法と具体例
実際にいくらが支給停止になるか、計算式と具体例で確認します。
計算式
令和8年4月以降の計算式は次のとおりです。
- 基本月額 + 総報酬月額相当額 ≦ 65万円:全額支給
- 基本月額 + 総報酬月額相当額 > 65万円:基本月額 −(基本月額 + 総報酬月額相当額 − 65万円)÷ 2 が支給される金額
つまり、合計が基準額を超えた分の半額が老齢厚生年金から差し引かれる設計です。差し引かれた分は将来戻ってくるわけではなく、その月の年金が減るだけで、賃金と合わせた手取り全体としては基準額を超えても緩やかに増え続ける仕組みです。
例1:賃金46万円+老齢厚生年金10万円
総報酬月額相当額46万円・基本月額10万円のケースで考えます。
- 合計:46万円 + 10万円 = 56万円
- 改正前(基準額51万円):(10万円 + 46万円 − 51万円)÷ 2 = 月2.5万円が支給停止、年金は月7.5万円
- 改正後(基準額65万円):合計56万円 ≦ 65万円のため老齢厚生年金は全額支給(月10万円)
このケースでは、改正によって年金が月2.5万円増え、年額で30万円の支給増になります。
例2:賃金60万円+老齢厚生年金10万円
総報酬月額相当額60万円・基本月額10万円のケースです。
- 合計:60万円 + 10万円 = 70万円
- 改正前:(10万円 + 60万円 − 51万円)÷ 2 = 月9.5万円が支給停止、年金は月0.5万円
- 改正後:(10万円 + 60万円 − 65万円)÷ 2 = 月2.5万円が支給停止、年金は月7.5万円
このケースは合計が65万円を超えるので支給停止は残りますが、停止幅が月9.5万円から月2.5万円へ大幅に縮小し、年金額は月7万円多く受け取れる形になります。
年金が一部止まっても合計手取りは増える
合計が基準額を超えた分の半額しか差し引かれない設計のため、65万円を超えても、実際に支給される年金額と賃金の合計額はなだらかに増加する仕組みで、賃金が増えたことで合計の手取り収入が減ることはありません。「賃金が増えると年金が一気にゼロになる」「働くだけ損になる」という誤解を持つ方が多いですが、計算式上はそうなりません。
5. 賃金+年金の合計別に見る影響
賃金+老齢厚生年金の合計がいくらの人にどう影響するか、ざっくり整理します。
合計が月51万円以下の方
改正前後で変化はありません。もともと基準額の月51万円以下なので、改正前後とも老齢厚生年金は全額支給されます。
賃金を抑えて働く方や、嘱託・パート勤務で短時間就労する方は、賃金と老齢厚生年金の合計が基準額に届かないことが多く、この層に該当します。実際、支給停止の基準額が50万円だった2022年度末時点で、65歳以上で在職しながら年金を受け取る人のうち支給停止の対象は約16%(約50万人)にとどまり、多くは基準額以下で全額受給しています。今回の改正は影響しませんが、引き続き全額受給を続けながら働ける設計です。
合計が月51万円超〜65万円の方
最も恩恵を受ける層です。改正前は基準額51万円を超えた分の半額が支給停止されていましたが、改正後は新基準額65万円以下に収まるため老齢厚生年金が全額支給されます。
たとえば前述の例1(合計56万円)のように、改正前は月2.5万円が支給停止だったケースも、改正後は全額支給になります。賃金を減らさずに、これまでより多くの年金を受け取れる構造です。
合計が月65万円超の方
合計が65万円を超える方でも、改正前より支給停止額は小さくなります。基準額が14万円上がった分、停止額の計算で差し引く分母が小さくなるためです(前述の例2を参照)。
完全に支給停止が解消されるわけではありませんが、改正前と比べて月7万円程度年金が増えるケースもあり、賃金と老齢厚生年金の合計が月65万円超の水準で働き続ける方にも一定の効果があります。
対象は厚生年金に加入して働く期間だけ(自営業は対象外)
支給停止されるかどうかは、老齢厚生年金を受け取る時点で厚生年金保険の被保険者として(70歳以降は厚生年金の適用事業所で)働いているかで決まります。判定に使うのは受け取る時点の働き方で、過去に会社員だったかどうかは関係ありません。会社員時代に納めた保険料は老齢厚生年金の「金額」を決めますが、その金額計算と「支給停止するかどうかの判定」は別の処理だからです。
自営業・フリーランスとして個人事業で働く方は厚生年金の適用事業所に勤めているわけではないので、事業所得がいくらあっても支給停止の対象になりません。たとえば58歳まで会社員で59歳から自営業に移った方は、自営業の期間は支給停止を受けず、会社員時代に積み上げた老齢厚生年金を満額受け取れます。ただし、65歳以降に再び会社員などとして厚生年金に加入して働く期間があれば、その期間だけは在職老齢年金の判定対象に戻り、賃金と老齢厚生年金の合計が基準額を超えた分だけ支給停止されます。
6. 60代以降の家計でできること
支給停止が緩和された手取りを、どう家計に活かすか。3つの方向で考えられます。
① 投資制度の枠を使って資産形成と節税を進める
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、国民年金被保険者であれば加入でき、加入できる方の年齢は原則20歳以上65歳未満です。本記事の対象読者である60代の方の場合、60〜64歳で厚生年金保険に加入しながら働く方は加入できますが、65歳以上は原則として加入対象外になります。掛金は全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除の対象になるため、60〜64歳のうちに掛金を拠出すれば、所得税・住民税の負担を抑えながら老後資金を上乗せできます。
新NISAは年齢の上限なく利用でき、運用益が非課税です。65歳以上で iDeCo を使えない方も新NISA は活用でき、新NISA でクレカ積立を組み合わせれば積立額に応じたポイント還元も得られます。
賃金と年金を合わせた手取りに余裕が出る分の一部を、税制優遇のある枠に振り向けると、長生き時代の運用資産を増やしやすくなります。
② 固定費の支払い方を見直す
毎月の固定費(通信費・光熱費・保険料・サブスク)をクレジットカード払いに集約するだけで、年間で見ると無視できない還元額になります。たとえば月5万円の固定費を1%還元のカードで支払えば、年間6,000円分のポイントが戻ってきます。
定年後は支出構造が変わるタイミングなので、これまでの引き落とし方法を一度棚卸しすると、無駄な支出や還元の取りこぼしを見つけやすくなります。
③ 自分の生活圏に合うポイント経済圏を選ぶ
楽天・PayPay・Vポイント・dポイント・au/Ponta など、ポイント経済圏ごとに対応サービスや還元率の仕組みが異なります。普段使うサービス(通信会社・ネットショッピング・コンビニ)に合わせて経済圏を1つに絞ると、ポイントが分散せず実質的な家計改善につながります。
7. 今後の見通し
在職老齢年金の改正は2026年4月の基準額引き上げが主な内容ですが、年金制度改正法には他にも複数の見直しが含まれています。
- 厚生年金の標準報酬月額の上限の段階的引き上げ:厚生年金保険の標準報酬月額の上限を段階的に引き上げる規定が設けられました。賃金水準の上昇に応じて、保険料の対象になる賃金の上限を上げ、その分将来の給付にも反映する設計です
- 被用者保険の適用拡大:パート・アルバイトなど短時間労働者への厚生年金・健康保険の適用範囲が広がります。これまで国民年金のみだった層の一部が厚生年金加入になり、将来の年金額が上乗せされる方向に動きます
- 毎年度の基準額の自動改定は継続:制度改正後も、賃金スライドによる毎年度の改定は続きます。令和9年度(2027年度)以降の基準額は、その時の名目賃金の動きによって65万円から微増・微減で動く可能性があります
老齢厚生年金を受け取りながら働く時期は、家計の収入源が「賃金+年金」の2本立てになります。制度改正で支給停止の影響が減るタイミングは、働き方や資産運用の見直しを考える区切りにしやすい時期です。
8. よくある質問
改正後も「働くと年金が減る」のはどんな場合ですか?
賃金が増えると年金がゼロになることはありますか?
自営業・フリーランスで働く場合は影響を受けますか?
老齢基礎年金(国民年金部分)も支給停止の対象ですか?
改正後の新しい基準額65万円は、ずっと変わらないのですか?
9. まとめ
2026年4月の在職老齢年金改正は、支給停止が始まる基準額を月51万円から月65万円に引き上げる内容です。賃金と老齢厚生年金(報酬比例部分)の合計が月65万円までであれば、老齢厚生年金は全額支給されます。
合計が65万円を超える方でも、改正前と比べて支給停止の幅は小さくなります。基準額を超えた分の半額しか差し引かれない設計のため、賃金が増えれば手取りも増える方向に動きます。「働くと年金が減る」と言われがちな制度ですが、実際にはここまで広い範囲で全額支給に戻る改正です。
働きながら受け取る年金が増える分、家計の余力をどう活かすかが次の論点です。iDeCo・新NISAでの資産形成、固定費の支払い方の見直しなど、60代以降の家計でできる選択肢は複数あります。改正のタイミングで一度、自分の働き方と家計の設計を棚卸ししてみるとよいでしょう。
普段の支払いに使うクレジットカードの整理から始めると、固定費還元・特定店舗の還元を底上げしやすくなります。
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